筋膜性疼痛症候群とは?
概要
筋膜性疼痛症候群(きんまくせい とうつうしょうこうぐん、Myofascial Pain Syndrome:MPS)は、筋肉が原因となって痛みやしびれを引き起こす病気です。 日本では筋痛症とも呼ばれることもあります。
この病気は1980年代にアメリカで『Travell & Simons’ Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual (筋膜性疼痛と機能障害: トリガーポイントマニュアル)』(Janet G. Travell 医師とDavid G.Simons医師の共著)という医学書にて発表されました。
通常、我々が急激に重い物を持ったり、無理な姿勢等により繰り返し筋肉に負荷をかけると筋肉に微小損傷が発生します。いわゆる筋肉痛の状態です。通常、この痛みは数日程度で自己回復をします。しかし、さらに、繰り返し筋肉に負荷を与えたり、寒冷にさらされたりりて血行の悪い状態を作ると、その部分が痙攣(けいれん)状態になり短期間で自己回復できなくなります。この状態が筋膜性疼痛症候群(MPS)になった状態です。
筋膜性疼痛症候群(MPS)では一般的な筋肉痛とは異なり、痛みやしびれの強さが相当激しいものになり、更に痛みやしびれの範囲が広範囲に発生します。
症状
この病気の主な症状は痛みとしびれです。
痛み、しびれを感じる部位
この病気が起きる可能性ある筋肉は全身の筋肉です。ただし、筋膜性疼痛症候群(MPS)の場合は、全身で同時に痛み、しびれが発生することは基本的には無く、片肩、首、腰、片足など特定の部位、若しくはその複数の部位の組み合わせで発生をします。また、筋肉の痙攣(けいれん)が起きている場所によっては、広い範囲で痛み、しびれを感じます。例えば以下のような例があります。
痙攣(けいれん)がある筋肉名 | 痛み、しびれが広がる部位 |
小殿筋(足の付け根付近) | 足の付け根から足首にかけての足全体 |
上後鋸筋(背中の肩甲骨付近) | 肩から指先まで腕全体 |
腰方形筋(腰の背骨付近) | 腰及びお尻の広い部分 |
また、痛み、しびれを感じる部位が、時間の経過と共に移動する事があるのも、この病気の特徴の一つです。
痛みの感じ方
人により痛みの感じ方は異なりますが、重量物が足を潰しているような痛み、火であぶっているような痛み、ナイフが刺さっているような痛みなどに例えられます。痛みが強い場合には歩行、座る事、立つ事など日常生活を困難にするほど強い痛みになる事があります。また、痛みの感じ方も時間の経過と共に変化をする事あります。
原因
筋膜性疼痛症候群(MPS)になる原因は複数あると考えられています。
筋肉の損傷
重いものを持ったり、長時間の同じ姿勢、筋肉に負担のかかる姿勢などによる筋肉のへの過負荷が大きな原因です。一般的に筋肉に対する過負荷は本人が自覚できる場合とできない場合がありますので、自覚できるきっかけの有無がこの病気であるかどうかの判断には必ずしも繋がりません。
付帯要因
筋肉の損傷に加えて、貧血、カルシウム・カリウム・鉄分、ビタミンC/B-1/B-6/B-12不足なども筋膜性疼痛症候群発症(MPS)の一つの要素になっていると考えらています。
診断
筋膜性疼痛症候群(MPS)であるかどうかの診断は、筋膜性疼痛症候群(MPS)の存在自体が日本ではほとんど知られていなく、レントゲン、MRI、血液検査など一般的に行われる検査では目で見える結果として現れないため、一般の医療機関では診断、治療が困難です。
また、同様の理由により、筋膜性疼痛症候群(MPS)が椎間板ヘルニアなど脊椎関係の異常や神経根を圧迫して発生している痛みと間違われる事もあります。
筋膜性疼痛症候群(MPS)であるかどうかを知るためには、筋膜性疼痛症候群の診断、治療を行っている医療機関で診断をしてもらう事が必要です。このページではご自身で目安を知る事ができる診断ポイントを紹介します。
押すと痛みが広がる部位(トリガーポイント、発痛点)があるか?
筋膜性疼痛症候群(MPS)では、筋肉の痙攣(けいれん)、硬直部位に物理的に力を加えると、そこから痛みが広がるような点が見つかります(トリガーポイント、発痛点と呼びます)
その他
筋膜性疼痛症候群(MPS)では、筋肉内の血管の血流が悪くなり痛みが発生しますので、痛みが発生している付近に血流の悪さによる、軽い「むくみ」が発生する場合があります。例えば、ふくらはぎに痛みがある場合は、その痛みのあるふくらはぎが軽くむくんでいる場合があります。
間違えられやすい病気
筋膜性疼痛症候群(MPS)は以下の病気として、誤った診断をされることがあります。
○顎関節症
○五十肩
○緊張型頭痛
○テニス肘
○椎間板ヘルニア
○脊柱管狭窄症
○椎間板症
○腰椎すべり症
○変形性膝関節症
○変形性股関節症
○頸肩腕症候群
○腱鞘炎
○半月板障害 他
また、発生した筋肉の部位により、以下のような症状が出ることがあります。
○非回転性めまい
○耳鳴り
治療
筋膜性疼痛症候群の治療においては有効な医薬品はまだなく、治療により筋肉内の痙攣(けいれん)を解く治療が一般的です。
治療方法
一般的に行われている治療には以下の治療があります。尚、これらの治療は痛みもほとんど無く、安全性も高い治療です。
トリガーポイントブロック注射
筋肉の痙攣(けいれん)部位に局部麻酔注射をすることにより、筋肉の痙攣(けいれん)を解き、血流を改善する方法です。(一般的に痛みの治療で行われる、「硬膜外ブロック注射」「神経根ブロック注射」とは異なります)
トリガーポイント鍼療法
東洋医学の鍼治療で用いられる鍼を使用して筋肉の痙攣(けいれん)部位に刺激を加え、痙攣(けいれん)を解く方法です。
治療の期間
通常はある程度の回数を、時間をかけて治療する必要があります。症状が強く日常生活が困難な痛みがある場合は数ヶ月にわたる入院治療を必要とする場合もあります。
また、治療の開始が遅れると、脳、脊髄に痛みの信号が長期間に渡り入り続けることにより、脳、脊髄が痛みに敏感になるなど脳、脊髄の複雑な動きが関与してくるなど完治に時間がかかるようになりますので、少しでも早く治療をする事が大切です。
自分でできる治療方法
一般的に、筋膜性疼痛症候群を発症してしまった場合、自分自身でできる治療のみにより、短期間で痛みを取る事は難しいですが、自分自身でストレッチング・マッサージ(虚血性圧迫法 他)などを行う事により、症状が改善する場合もあります。
《 治療の問合せはこちら 》